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SpiltMilk

デジタル一眼レフカメラ「EOS6D」と「60D」でのあれこれ。世界一周やめての途中で帰国した阿呆の写真・動画ブログのはずだったんだけど最近なんなんだかよくわからなくなってきている適当な何かしら。

『窓開けて 影道連れに 鳥のよう』

いつの頃からだったか、私は自分の影をとても鬱陶しく思うようになった。何かのきっかけがあったのかもしれないが、そんなことはもう全く覚えていない。ただ、私は私の影がとても鬱陶しいのだ、ということしかわからない。


嫌なことを予想して、その通りになったらとてもイライラする、という状況がわかるだろうか。これを説明してもわかってくれる人とわかってくれない人がいる。わかってもらえないかもしれないが、予想して、その通りに嫌なことが起こるというのことが私にはとてつもなくストレスとなるのだ。
別に影すべてが嫌いなわけではない。自分の影が嫌いなのだ。むしろ建物などの大きな影に入れば私の影は消えてしまうので、私は他の影は好きだと言える。でもその影から出る時に、その影から一歩踏み出したら影がまた私の足元にまとわりついてくるのだと考えると憂鬱になり、そして踏み出してその通りになった時に私はどうしようもなく苛立つのだ。

どういった苛立ちに近いだろう。自分ではどうすることもできないものへの我慢するしかない抑えるしかない苛立ちと、片手しか使えない状態でその手にまとわりついたセロハンテープの切れ端をとろうとしているのに、それぞれの指に何度もくっついたりしてこすり合わせる形ではとれないから手を降ってとれないかと思って手を振り、でも内心は手を振った程度ではとれないだろうと思っていて、案の定とれなくていらいら、いつまでもついているセロハンテープにいらいら、振った手を机にぶつけて痛くてさらにいらいら。誰にも怒ることもぶつけることも出来ない怒りといらいら。そんなようなものがまとまってくるような感じといえば伝わるだろうか。

影など気にしなければいい。そんなことはずっとわかっている。だから気にしていない瞬間も良くあるのだと思う。しかし、気にしないようにしよう、と思ってしまうとそれはもう気にしてしまっていて、それもまたイライラする。気にしていない時に影が自分の元にあってもイライラしないこともある。しかしまた例えば手を上げて、それを下ろして机におく際に、少しだけ、あ、影がつく、と思ってしまうともうそれで不愉快なのだ。

影を私から離すことは出来ない。いつもどこかでつながっている。なんなんだろうか。私はなにがそんなに嫌なんだろう。そんなことを考えても仕方ないかもしれないが、もしかしたら、理由が分かれば嫌でなくなる術もわかるのかもしれないと時々思って考える。しかし、そう影について考えていると、やはりどうしても自分にまとわりついている影が不愉快になっていらいらしてそんなことを考えている余裕なんてなくなってしまうのだ。

何かに触れる、ということは私は影に触れるということで、私は毎日お気に入りの靴を影越しに履き、そのお気に入りの靴で私の影を踏みつけながら歩いている。服を着ている際に私の体が服の中で影になっているということは気にならない。それは私の影ではなく服の影だからである。
嫌なのはあの地面に這いつくばって居る私と同じ形をした影だ。あれはなんなのか。伸びたり縮んだり歪んだりはするものの、結局私の形で、ほぼ常に足とつながっているのだ。もう嫌だ。少しでも、本当に少しだけでもあの影を小さくしたい。意味なんかないかもしれない。でももしかしたら小さくし続ければいつかいなくなるかもしれないじゃないか。

そうだ。体にピタッとした服を着れば余計な影はいなくなる。少しだけ小さくなる。あの大きな頭はなんだろうか。鬱陶しくて仕方がない。風に靡くように動き回る細い影。あれは私の髪の影か。切ろう。髪を切ろう。女の子らしい範囲で。髪を切ろう。最近はボーイッシュなんていってかなり短くても大丈夫なのだ。

髪がスッキリした分少し影が小さくなった。日に日に小さくなる。私が痩せればもっともっと小さくなる。いなくなるかもしれない。もうご飯は最低限しか食べないで過ごそう。私が食べるということはあいつに栄養をあげるという事なんだ。どうして今まで気がつかなかったんだろう。
あいつを小さくしなきゃならない。あいつがなにをしたいのかはわかならないが、思い通りにさせてはいけない。あいつはまだ地面にくっついているしかできないけどエネルギーを蓄えたらわからない。もっとちいさくしよう。

部屋の窓を開けることはやめた。カーテンも遮光にして、電気をつけることもやめた。懐中電灯で最低限必要な先を照らす。私の影は出る暇がない。そうしたらどんどん弱って、もしかしたら何時の間にかいなくなるかもしれない。そう思ってこもっていても、やっぱり玄関から出る時はいまいましくも足にまとわりついてくる。
しかし心なしか弱々しくなったような気がする。小さくもなってきた。細くもなってきた。反応も遅い。もうすぐ消えるんじゃないか。この生活を続けよう。

運動のためにいったプールで気付いた。あいつはプールの底にへばりつくしかなく、私にもう触れることはできないほど弱っているようだった。ずっとプールの底にいて、私とは離れていた。嬉しい。離れている間はすごくからだが軽く感じた。嬉しい。でもプールから上がるとまだついてきた。ついてこられると体がとても重くなる。どうにかして早く消せないものか。プールのように何処かに置き去りにできないだろうか。

もうすぐいなくなるだろうと思ってから、もう大分たった。全然いなくならない。前よりもどんどん体が重たくなっているような気がする。もう部屋からほとんど出ていないからあいつはみていないが、まだ間違いなくこのくらい部屋のなかで私にくっついているんだろう。弱ったと思ったのに、弱ってからが長い。私のエネルギーが取られているようだ。またプールにいって底に沈めてやりたいが、プールにいくことも難しい。
今私は弱っているから部屋から出ると体を乗っ取られてしまうかもしれない。気づかれないうちに置き去りにする方法はないものか。

また数日たった。もういなくなっただろうか。今は時計が二時を指している。おそらく深夜だろう。もしかしたらもういなくなったんじゃないか。でもいなくなっていなかったら怖い。でもこんな部屋にこもりきりでは私がよわってしまうかもしれない。今は深夜だ。少しカーテンを開けても影はできないだろうとカーテンを開けた。

目に飛び込んでくる白く強い灯り。夜って、月ってこんなに明るかったかな。振り向きながら足元に目をやる。あぁ、やっぱりまだ消えていない。あれから小さくもなっていない。どうしていなくならないのか。最近はいらいらすることもなく何故消えないのかという思いばかりだったが、こうまで努力していないのになぜこいつは消えないのかという思いが爆発し、異常ないらいらがまとめて襲ってくる。

どれだけ怒鳴り散らしても消えない。もうなにがなんだかわからず、暴れまわり、部屋のものを壊し、ぐちゃぐちゃにしたところで全く消える気配などなく床で踊り周り、私が息を切らせながら睨みつけても方を震わせて笑っている。こいつはなんなんだ。私がいなければどこにも移動もしないくせに。こいつはなんなんだ。プールの底に…

そこで私は思いついた。こいつは地面を這いつくばるしかできないのだ。だったら地面につかずに移動すればこいつは置き去りじゃないか。そうじゃないか。ほうほうなんて簡単だ。

私は部屋のベランダに出る。綺麗な月明かりに照らされてより一層私の足下ではっきりするあいつ。なんにも気付いていない。本当に頭が悪いついてくるしか考えていない馬鹿だ。

両手で柵を掴んで、片足を柵に載せる。
あいつもただただいつも通り柵についてくる。まだ気付いていない。

私は笑をこらえるのに必死だった。
ここで気づかれちゃいけない。
まだ笑うは我慢。いつも通り憂鬱な顔を努力して顔面に貼り付ける。

いまだ!私はベランダから外へ飛び出す。

「ばーか!お前はベランダに置き去りだ!」
ついに言えた!言ってやった!笑いが止まらない。始めてあいつを出し抜いてやった。ベランダで途方に暮れるがいい。

ついに勝ったのだ。離れたのだ。



そう思えたのも、本当に一瞬の間だけだった。
気づかれていた。あいつはすごい勢いで私を追ってきて、先回りしていた。私はあいつにぶつかっ   



『窓開けて  影道連れに 鳥のよう』

●今までに行った場所一覧はこちらから → 『世界一周で周った場所一覧』
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